身柄拘束は抑制的に~最高裁判例の動向~

1 先日、刑事事件における身柄拘束に関する、重要な最高裁の判断が出されました。痴漢事件における勾留の要否を争った事案に関する、最高裁平成26年11月17日第一小法廷決定(平成26年(し)第578号・勾留請求却下の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件)です。

 

2 刑事事件においては、被疑者の身柄を拘束する必要がある場合には、まず逮捕がなされます。逮捕されると、 72時間以内の身柄拘束がなされることになり(送検前48時間・送検後24時間)、その後さらに、捜査機関が身柄拘束の必要性があると考える場合には、10日間という比較的長期の身柄拘束である勾留を裁判所に請求することとなります。勾留が認められた場合には、被疑者は準抗告・特別抗告という方法で、裁判所に不服の申し立てをすることが出来ます。

 

本件事案では、電車内での痴漢行為によって逮捕された被疑者に対する勾留請求に対し、原々審は勾留の必要性がないとして勾留請求を却下しました。他方で、準抗告に対する原決定は、被疑者が被害者に対して働き掛けるなど罪証隠滅を疑うに足る相当の理由がある、としてこの却下決定を取消し、勾留を認める判断をしました。

 

これに対し、最高裁は裁判官全員一致の判断で原決定の認定を覆し、勾留請求を却下した原々審の決定を維持しました。その理由付けとしては、本件の主たる要素は、証拠隠滅の現実的可能性の程度であるところ、事件は朝の通勤時間帯の地下鉄車両内で発生したもので、被疑者が被害者に接触する可能性が高いことを示すような具体的事情が伺われないことから、原々審の判断は不合理と言えない一方、原決定においてそれを否定するような判断をした理由が何ら示されていない、ということです。

 

3 勾留が認められるためには、法律上「証拠隠滅のおそれ」や「逃亡のおそれ」といった要素が問題となります。従来の裁判所のスタンスは、検察官から勾留請求がなされると、上記のような「おそれ」というものを抽象的に広く考え、勾留請求を却下するということは、殆ど考えられませんでした(2002年時点では、却下率わずか0.1%)。

 

そのため、長期の身柄拘束の中で、捜査機関は集中的に被疑者の取調べを行うことが許されてきたのです。このような状況は、犯行を否認している被疑者に対しても、時間をかけた取調べ等の結果、捜査機関に有利な自白が引き出されかねず、ひいては冤罪の危険すら孕んでいるものと言え、『人質司法』と揶揄されてきたという歴史があります。

 

4 今回の最高裁決定に代表されるように、近年裁判所も過去の実情を批判的に捉え、勾留請求を却下する判断を徐々に増やす運用となってきています。却下率は増加しており、2013年には、1.6%にまで至っています(100件に1件以上の却下率)。

 

裁判員裁判のスタートを含め、国民の司法への関与や関心が進む中、公正な手続きや判断が、ますます求められていくものと思われます。逮捕や勾留は、それ自体が刑罰ではありませんので、現実的な必要性のもと、抑制的な運用がなされることが極めて望ましいと考えます。

 

今回は、勾留に関しての判断でしたが、起訴後の保釈請求の判断についても、裁判期日(ないしは判決)までの身柄拘束(起訴後勾留)が相当長期にわたることを考慮すれば、その目的に即して、現実的かつ柔軟な運用が必要なのではないでしょうか。                                   (上杉謙二郎)