介護事業者の施設火災における刑事責任~近時の裁判例から~

本年2月1日に長崎地方裁判所において出された刑事事件(罪名:業務上過失致死)の判決を題材に、お話をしたいと思います。

 

1 本件事件は、グループホームにおいて火災が発生し、利用者ら数名が死傷した事案において、施設運営会社の代表者の刑事責任が問われたものです。

裁判所は、事業者が施設内にスプリンクラーを設置するなどせず漫然と施設を運営管理していたことをもって、業務上過失致死罪の成立を認め、懲役2年執行猶予4年の判決を言い渡しました。

 

2 本件事案は、施設での火災という必ずしも特殊な事案ではありませんが、出火の原因そのものは事業者の責任によるものではないとされた上で、発生した火災に対する消火設備等の設置管理の部分を取り上げ、刑事責任を認めたものという点で、それほど前例の多くない裁判例と言うことができます。

 

3 以下、裁判所の認定内容を引用します。

「B(当該施設)は傾斜地に建てられており,道路に面した玄関は2階部分にあり,各階の移動には階段を使う必要がある構造となっていた上,平成25年2月8日当時,Bには自力歩行のできない者を含む要介護認定を受けた認知症の高齢者が多数入居していた反面,Bでは入居者の介護に従事する介護職員が1名のみである時間帯があった。

このような状況の下でBの施設内において火災が発生すれば,同施設内に燃え広がり,入居者や職員の生命,身体に危険を及ぼすおそれがあったのであるから,被告人はBの経営,管理等の業務全般を統括するとともに,消防用設備等を設置,維持するなどの業務に従事するものとして,スプリンクラー設備を設置し,火災発生時における入居者等の生命,身体の安全を確保すべき業務上の注意義務を負っていたが,これを怠り,同設備を設置しないまま漫然とBの業務運営を継続した。」

 

4 このように、裁判所の判断では、要介護認定を受けた高齢者が多数入居していた反面、介護職員が1名のみである時間帯があったという状況を前提に、施設内で火災が発生した場合には入居者その他の生命身体に危険を及ぼすおそれがあったことを、施設運営者としての業務上の注意義務違反の根拠としています。

もっとも、指摘された要素のうち、施設の構造と介護職員の人数が1名になる時間帯があった、という事情については、それほどウエイトの高いものとは言えない、あるいはその両方が存在しなければ注意義務違反と認定できないというものではないように思います。

 

改めて考えてみると、非常時にエレベーターの利用は難しく階段を利用せざるを得ないこと、二階建て以上の建物であることはごく一般的であり、平屋建てであっても構造上危険性がないとは言えないと思われること、また、一定人数の認知症高齢者が入居する施設においては、複数人の職員が勤務していようと、火災等の非常時の対応が職員による行動のみで処理できるとは思われないからです。

 

運動能力の低下を含む多数の認知症高齢者が入居している施設という基本的な状況があれば、火災発生に備えた設備の設置等を行うことは、かなり広く課せられる義務と言わざるを得ないように思います。この意味で、事業者の方は、注意が必要です。

 

5 本件事案は、多数の死傷者を出したということで、刑事処罰を含め大きな問題となったものですが、結果の大小にかかわらず、施設内で入居者の生命身体に損害が生じるような事態については、施設管理の問題として、適切に対応する必要があります。

 

上記のとおり、火災に対する予防設備や消火設備は、広く事業者としては、設置管理しておくことが求められ。併せて今後は、地震等の自然災害への対策の点も、検討すべきように思われます。事業者の方は、一度ご自身の施設の設備や対策を確認されるのがよいでしょう。

(上杉謙二郎)