危険な運転から身を守るには~あおり行為への対処法と裁判例~

1 最近、高速道路の追い越し車線上で後ろを走る車両を強引に停車させ、その結果として後続車両の追突を誘発したという事件が、ニュースとなっています。二人の死者を出していることからも、世間の注目を集めています。

高速道路に限らず、危険な幅寄せやあおり運転をされてしまった場合、どのように対処すべきかは非常に難しいところがあります。上記のような事件を聞くと、安易に停車することも躊躇されますし、かといって、高速度で逃げる、急な右左折や転回をする、というのも危険が伴う運転行為と言わざるを得ません。

 

少し前の裁判例ですが、あおり行為から逃げるための速度超過運転が、道路交通法違反で起訴された事案(札幌高裁平成26年12月2日判決)を紹介し、検討をしてみたいと思います。

 

2⑴ この事件は、被告人が、片側一車線の一般道路において、法定速度60キロメートル毎時を34キロメートル超える94キロメートル毎時で走行したことが、道路交通法違反に問われた事案です。

 

速度超過運転をしたこと自体は事実として認定された上で、そうした運転をしたことが、接触事故やそれによる生命身体に対する危険を避けるために『やむを得ずにした行為』と言えるか、すなわち「緊急避難」(刑法37条1項)が成立して、無罪とならないか、というのが争点となっていました。

 

 

⑵ 第一審判決(札幌地裁)は、被告人の、「被告人車両が片側1車線の道路を長く大きいトラックに続いて進行する状況で、後続車が、対向車線に出て被告人車両に並ぶことを二、三回繰り返したり、二、三分間にわたり被告人車両の一、二メートル後方で密着したように迫ってきた。」という供述をもとに、①上記のような後続車の走行態様は、被告人が自車を道路状況や交通状況に合わせて安全に走行させることを強く制約するだけでなく、接触事故の危険性を高めるものであるから、当時、被告人の生命及び身体に対する危難が存在したというべきであり、②被告人が被告人車両を加速させて前方のトラックを追い越したことは、後続車が生じさせている前記危難から逃れるための行為であると認められるところ、係る危難を避ける現実的な方法がこれ以外に存在したことを認めるに足りる証拠はないと判示し、緊急避難の成立を認め、被告人を無罪としました。

 

⑶ これに対して、控訴審判決は、被告人の後続車に関する供述は極めて曖昧であり、変遷していることなどから、その信用性にかなり疑問があるとした上、仮に被告人供述を前提としても、後続車が被告人車両に接近するに先立ち、後続車の運転者との間で格別の諍いはもとより何の関わりもなく、後続車の上記運転状況に照らせば、後続車の運転者は被告人車両を追い越すことを意図してかかる走行方法をとったものとみるほかなく、被告人においても、そのことを優に認識していたものと認められるのであるから、そのような場合、先行する車両の運転者として、ブレーキを軽く踏んで制動灯を点灯させ、後続車に被告人車両への接近行為をやめるよう注意を喚起し、なお後続車が同様の走行方法を続ける場合には、適宜減速して左寄りに進路を変更したり、道路左端の路側帯等に退避したりして、後続車による追い越しを促すことが、常識的かつ通常の対処方法であるとしました。

 

そして、「被告人が供述する本件当時の具体的状況を踏まえても、被告人がそのような対処方法をとることは、現実的で十分に可能であったと認められ」、「本件において、被告人が本件速度超過行為に及ぶ以外に後続車の接近等を避ける現実的な方法がなかったとは到底いえず、上記のような対処をすることなく、速度超過という犯罪に出たことが、条理上肯定し得ないことは明らかであり、本件速度超過行為は刑法37条1項にいう『やむを得ずにした行為』に該当しない」として、緊急避難の成立を否定し、被告人に罰金4万円の有罪判決を言い渡しました。

 

3⑴ このように、一審と二審で逆の結論となりましたが、その判断が分かれた部分は上記下線部で認定されている部分となります。

 

つまり、後続車からのあおり行為を受けた場合の対応として、どこまでの対応が想定され、また実際に可能であったか、ということが重要です。

 

 

⑵ かかる点について、『被告人車両が片側1車線の道路を長く大きいトラックに続いて進行する状況で、後続車が、対向車線に出て被告人車両に並ぶことを二、三回繰り返したり、二、三分間にわたり被告人車両の一、二メートル後方で密着したように迫ってきた』という状況を前提とすると、現実的な対応としては、どうできたでしょうか。

 

確かに、一審の認定のように、他に現実的な手段がなかったと簡単に判断することは疑問が残るところでありますが、他方で、二審の指摘するようなブレーキ灯での注意や道路左側への退避についても、後方に密着しているような状態かつ何らかの嫌がらせ目的も見て取れる状況においては、実際上困難であったとも考えられます。

 

そうすると、より具体的に実現可能性を判断していくことが、適当と考えられるところです。上記の件は、実際の走行時の状況は被告人の供述に依っていることから、正確な認定が難しい案件であったかもしれません。しかし、今後は、ドライブレコーダーの導入率も向上している関係から、より実情に沿った認定も可能になってくるように思われます。

 

なお、二審で指摘されている、道路脇に停車して追い越しを促すという方法については、停車した後に後続車も停車して、そこから暴行・傷害事件に発展する可能性も否定できないことから、安易に停車してしまうことも躊躇されるところです。冒頭に挙げた事案も、停車後にさらにトラブルとなっていることから、注意が必要な点と言えます。

 

4 今回ご紹介をした裁判例は、少し古いものということもあり、危険な運転が世間でも取り上げられるようになった現在においては、評価の仕方も変わってくる可能性があると言えます。

 

上記のとおり、ドライブレコーダーの記録によって、より具体的な危険性等の判断も可能となりますので、道交法違反事件で緊急避難が認定される場合の基準も、より定まってくるものと思います。  (上杉謙二郎)