120年ぶり民法債権法改正 成立、大きく変わる契約ルール

民法債権法が平成29年5月26日の参議院本会議で賛成多数で可決し成立しました。6月上旬頃に公布、公布から3年以内の政令で定める日(平成32年4月以前)に施行されます。おととしの3月末の国会提出から2年2ケ月かけて審議され、120年ぶりの抜本的な改正となりました(民法債権編(債権法改正案)、189閣法63号及び64号)。
債権法の分野は、いわば、お金のやり取りを伴う契約のルールを定めた法律、改正の要点は大きくは次の通りです。改正項目は、多岐に亘りますが、その中から、5つのポイントをお知らせします。

1 短期消滅時効の廃止(消滅時効期間の統一)
改正法では、従来の短期消滅時効の制度(例、飲食代金1年、商品代金2年、賃金債権請求2年、建築請負債権3年など)が廃止され、「権利を行使できる時から10年間」に加えて、新たに「権利を行使できることを知った時から5年間」も加わり、消滅時効が統一されます。時効の完成を主張する側が、権利者が権利行使できると知っていたことを主張・立証できれば、5年で時効完成するということです。もっとも、実際いつが「権利者が権利行使できる」時点と言えるかは、別途問題となります。

 

2 法定利率は5%から3%へ引き下げ
今回の改正では、法定利率を3%に引き下げ、その後3年ごとに1%刻みで見直す変動制、としています。これは、民法制定以来の5%の法定利率を現実の利回りに少しでも近づけようとするものです。貸金など、当事者間に定めのある時にはその約束に従うため、法定利率は当事者に定めのない場合に出てくるとされます。影響があるのは、契約関係のない不法行為損害賠償請求(例、交通事故で賠償請求する場合の中間利息の控除の利率)です。

 

3 保証人の制限・保護

今回の改正では、保証人に関しては、次の点が重要と思います。

①保証人が法人である根保証契約では、金額の枠(極度額)を定めないときは無効。単に「保証する」と約束するだけではだめで、「○○○万円の限度で保証する」としなければなりません。

②事業のための債務についての個人(根)保証は、その締結の前1か月以内に作成された公正証書で保証人となろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ無効。1か月前以内に、公証人役場で、保証債務を履行する意思を表示して記録することが必要というものです(保証契約書自体を公正証書でする、ということではありません)。

但し、主債務者が法人であって、取締役が保証人となる場合には適用はありません。

③事業のための債務についての個人(根)保証は、主たる債務者である団体の取締役、支配社員等、事業に現に従事する主たる債務者の配偶者に限られます。これは、保証人の範囲を制限するもので、これらにあたらない第三者は事業のための融資を受ける際の保証人とはなれない、とする規定です。

④また、事業のために負担する債務(主債務)を保証してもらうためには、借入れをする主債務者は自らの財産状況を保証人に情報提供しなければならず、事実と異なる情報提供があった場合、保証契約を取り消せる場合があることになります。

 

4 敷金は原則返還

改正法は、敷金を「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義し、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、「賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない」として、敷金の返還義務を規定しています。
また、さらに、「賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」として、原状回復義務について、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と既に最高裁判所の判例で示されていた内容を明確に規定しました。

 

5 「定型約款」について
スマートフォンでの契約やインターネット取引でよく使われる「約款」(細かな字でギッシリ書かれていて、インターネットの画面では、同意する、にクリックするといったものや契約時に渡される冊子での契約約款)について、改正法は、「定型約款」に限定した上で、いつくかの規定を置いています。まず、定型性の高い約款、定型約款の定義として、「定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」とし、従来「約款」とされていたものより狭い範囲に限って規制しようとしています。そして、「定型約款」について、不当条項や、変更の場合の規制が行われます。

 

消費者側の権利を制限し、または義務を加重する契約条項であって、消費者の権利を一方的に害する約款の条項については、「合意しなかった」ものと、みなされます。また、消費者は、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項であるから無効とする規定)の無効の主張を選んで主張することもできます。

大づかみに言うと、取引をする際に使われる「取引約款(契約約款)」について契約としての拘束力が認められたこと、約款の内容を変更する場合、変更に合理性があれば消費者等の相手方の個別の同意が不要となった事が重要です。ただし、約款の内容について、社会通念に照らして消費者等を一方的に害すると認められた場合、契約の拘束力はありません。

その他、企業経営に影響があるポイントは多いと思いますので、早い時期に、法文の内容を知り、現在行っている自社の契約ルールや慣行を見直すことをお奨めします。<池田桂子>