新たな解雇法制~不当解雇の金銭的解決制度~

日本における労働者の解雇というものは,使用者が自由に解雇できるものではなく,客観的に合理的理由を欠き,社会通念上相当であると認められなければその解雇は権利の濫用として無効とされてしまいます(労働契約法16条)。
もし解雇が無効とされたらどうなるのでしょうか。法律上の原則からすると労働者の解雇が無効ということは,その労働者はまだ会社に所属していることになります。そのため,基本的に職場に復職させるか,もしくは自宅待機命令を出しつつ給与は満額支払うという取り扱いをすることになります。

 

しかし,企業にとっても解雇された労働者にとっても,一度解雇されてその有効無効を争った後に同じ職場に復職するというのは精神的ハードルが高い場合が多いものと思います。
もちろん,そのようなストレスを生じさせないように労働環境を整備しなおすことが企業側の義務として求められますが,労働者自身が積極的に復職を望まないという場合も多々あります。
このようなときには,現在,解雇無効をあっせん手続きや労働審判,訴訟などで争いつつ,最終的には一定の解決金を支払って円満退社した取り扱いとするという和解的解決が主流となっています。

 

実際,平成18年から施行された労働審判制度も近年は概ね年間3500件程度の申立件数で推移していますが,その大半が和解的解決によって終結しています。この手続きは,裁判所において裁判官と労働審判員2名の立会いの下,原則として3回以内の審理で和解的解決を目指し,話し合いがまとまらなければ審判が下るという制度です。
俗にいう金銭解決の相場観というものについてもよく聞かれますが,概ね給与の3か月分から1年分というところでまとまるものが多い,というのが個人的な印象です。
今回,厚生労働省の検討会が上記のような不当解雇事案における金銭解決を制度的に認める方向性を具体的に示すことになりました。平成29年5月15日付にて厚生労働省の透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会で具体的な提言のたたき台が発表されていますが,解決金の算定において労働者の年齢や勤続年数,解雇の不当性の程度,精神的損害の程度を考慮すべきであること,解決金について上限・下限を設けるべきことなどを指摘しています(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000164690.pdf参照)。

 

また,不当解雇の金銭的解決を制度化することは,不当解雇の助長につながる(お金さえ払えば解雇できる)との懸念の声があるため,この制度の利用・申立ては労働者側からのみに限定すべきであるとの方向性が示されています。現状と照らしてみても,使用者側から不当解雇の金銭的解決制度を利用できる可能性は低く,経営的な観点から恣意的に金銭的解決を伴う解雇ができる制度にはならないものと予想されます。
しかしながら,今後の労働法制の流れを考えると,経営者の側から考えても,裁判所が通常の労働審判の調停や訴訟内の和解において同制度の解決金額の基準を流用することは十分に考えられるため,解雇自由化及び労働資源の流動化はますます進む可能性があると予想されます。              (西脇健人)