人事労務管理の諸問題 ~採用編~

1 平成29年2月23日に世界保健機関(WHO)が全世界でうつ病にり患している人口が約3億2200万人と推計される(2015年時点)と発表しました。日本でも平成28年に厚生労働省が発表したうつ病等の患者数は約111万6000人とされています。

日本の総人口から考えると約100人に一人は何らかの形でうつ症状が出ているということになります。

 

2 企業や人事労務担当者も頭を悩ませる従業員のうつ病ですが,実は入社以前からうつ病にり患していたけれども,企業側がその事実を把握しておらずトラブルになるケースが散見されます。

 

例えば,従業員が入社から数日でうつ症状により休職状態になり,勤務ができない状態になったので解雇などの対応ができないかと相談を受けることがあるのですが,現在の日本の労働法制では簡単に従業員を解雇することはできません。それが試用期間であっても解雇には法律上一定の合理性・相当性が求められます。もちろん,「従業員がうつになったから。」などと主張するだけでは解雇理由の合理性・相当性があるとは認められません。

 

3 もっとも,高度専門職や業務の内容によっては,うつ病にり患した状態では事実上業務を行えないということがあると思います。そのような場合には,従業員にとってもその職場で勤務を続けるということは酷なことかと思います。

 

そこで,企業,人事労務担当者の方は以下のように新卒・中途採用時の面接の内容を変更してみてはいかがでしょうか。

一般に,病歴や前科などのプライバシーにかかわる事項は採用面接時といえども回答を強制させられるものではありません。

 

しかし,当該病歴の有無が業務の遂行に関連する場合には,採用時に質問することに法的な問題はないものと解されます(例えば,経理担当者として採用予定の者に業務上横領や窃盗などの前科前歴がないことの質問など)。

 

もちろん面と向かっては質問がし難い事項ではあると思いますので,過度にプライバシーに踏み込むことなく採用面接の事前の質問ペーパーなどに質問事項として業務に関連する病歴や前科前歴などの有無を尋ねるという方法もあります。また,誓約書を書いてもらうという手法もあり得ます。

 

仮に,この質問事項書・誓約書に対して従業員が虚偽の説明をしていたのであれば,それ自体が違法な行為として解雇等の合理性・相当性を基礎づけるものにもなり得ます。

 

質問項目等についてですが,厚生労働省のストレスチェックシートが参考になります(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/)。労働安全衛生法が改正されて,従業員50人以上の企業ではストレスチェック制度の導入が義務付けられていますが(労働安全衛生法第66条の10),厚生労働省のストレスチェックシートは,労働者のストレス状態の確認を目的とするものですのでチェック項目などは参考になると思われます。

 

4 いずれにせよ,企業側としてもせっかく採用した人材を安易に解雇すべきではないですし,従業員側としても働けないかもしれないという不安や懸念を隠して就職をしてもお互いに不幸になりかねません。したがって,企業・従業員双方ともできる限り採用時の誠実で細やかな対応が求められてくるものと思われます。

<西脇健人>