グループホーム運営会社の刑事責任~近時の裁判例から~

1 超高齢化社会と言われる現在においては、多くの高齢者向施設が存在しています。しかし、その運営者としては、日々の運営にあたり、民事上・刑事上・労務管理上様々な責任を負うかもしれないという状況にあります。
そうした状況の中から、今回は、認知症対応型グループホームの運営会社の代表者が、業務上過失致死罪に問われた刑事事件を紹介したいと思います。

 

この事件は、認知症対応型グループホームにおいて火災により入居者7名が死亡した事案につき、火災の発生原因は、建物の居間兼食堂で寝起きしていた入居者がストーブの上面に衣類を置くなどしたことにあるとして、運営会社の代表取締役であった被告人が、そのような原因による火災の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を怠ったとして起訴された業務上過失致死被告事件です(平成28年10月14日札幌地裁判決)。

 

2 本件事件の争点は、C(火災の原因となったストーブの置かれた部屋で就寝していた入居者)が、半密閉式石油ストーブ(本件ストーブ)の上面に、着ていたパジャマなどの衣類を置くなどして、これを燃え上がらせたことが本件火災の発生原因として認められるかどうかという点のほか、本件火災発生の予見可能性、予見義務違反及び回避可能性、結果回避義務違反の有無や、本件火災当時の夜勤従業員の行動が不適切であったかどうか、の各点とされていました。

 

3 裁判所は、結論としては、無罪と判断しました。
その理由としては、「本件公訴事実は、本件火災の発生原因は、居間兼食堂で寝起きなどしていたCが本件ストーブの上面に着ていたパジャマなどの衣類を置くなどしたことにあるとの前提に立ち、本件建物の設備等の設置、維持及び防火管理業務に従事していた被告人において、火災の原因となる危険な行動を取りかねない入居者を居間兼食堂で寝起きなどさせ続けないようにするなどの適切な措置を講じ、そのような入居者の行動を原因とする火災の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を怠ったという点での過失を問う内容となっている。しかしながら、本件火災の発生原因をそのようなものと認定することができないのはこれまで検討してきたとおりであって、そうである以上、先のような過失を問題とする本件公訴事実の下では、犯罪の証明がないこととなる。」と判示しています。
すなわち、検察官が火災の原因として特定した原因行為(入居者Cがストーブにパジャマなどを置いてそれに引火したこと)自体の立証がなされていないということで、それを前提とする被告人の義務違反(業務上過失)を問うことは出来ないということなのです。

 

4 そもそも、日本の刑事裁判における有罪率は、極めて高いものがあり、無罪判決が出されること自体が、非常に珍しいことであるということは言うまでもありません。
本件において、さらに興味深い点というのは、火災の原因行為(Cの行為)についての検察官立証の柱であった、このグループホームに事件当夜唯一勤務しており、本件火災の第一発見者でもあった職員Eの証言について、Cの身体状況やホーム内の設備状況、さらにはE自身の従前の勤務状況等から判断して、その信用性には疑いがあると認定されたことと思われます。
判決においても、Eの証言は、「臨場感、一貫性などを備えたものとなっている」と指摘しながらも、裏付けの不存在や疑いを差し挟む事情の存在から、丁寧にその信用性を判断しているもので、実務上も参考になるのではないでしょうか。

 

5 上記のようにEの証言の信用性が認められなかった原因のひとつとしては、E自身が本件の前日に、看護師ら他の施設職員に業務上の不平や不満を述べるなど、不安定な精神状態にあったことを疑わせる事情があったことが挙げられています。
施設において何らかの事件が起こり、警察等による事実究明がなされる場合には、当然その施設の職員らからも事情の聴き取りがなされるところです。そうすると、場合によっては、施設側に不利な内容の証言をするということも考えられないわけではありません。日頃の不平や不満が表面化する可能性もあるわけです。
このような観点からは、施設職員のメンタルヘルスを含めた労務管理を、適切に行っていくことが大切なことと思われます。

 

6 本件では、検察官側の立証が不十分なものであったため、施設運営会社代表者の刑事責任は否定されました。しかし、このように、民事上の責任だけでなく、刑事上の責任を追及される可能性があるということ、しかも、事故等の直接の原因(本件で言えば火災の原因)を生じさせたわけではない運営会社の代表者や施設管理者が刑事責任を負う可能性があるということは、高齢者関連の施設を運営する側としては、頭に入れておかなければならないでしょう。
  たとえ認知症高齢者などの第三者の行動が介在したとしても、その予見可能性や結果回避可能性が存在する場合には、施設管理者としての責任を免れることは出来なくなります。この点を意識して、日ごろからのリスク管理に務めることが大切だと思います。                                (上杉謙二郎)