後見人の権限が変わります~民法が改正されました~

1 今回は、最近成立しました、民法改正について紹介します。

この改正により、成年後見人(以下、単に「後見人」と言います。)が①被後見人宛の郵便の送付を受けることと、その郵便の開封ができること、②被後見人の死後に一定の事務を行うことが出来ること、が定められました。

2 郵便の転送と開封について

⑴ これまで、後見人は後見業務を行うにあたって、一般的に被後見人宛の郵便物を後見人のもと(事務所住所など)に転送するということは認められていませんでした。被後見人を「代理」する権限はありましたが、郵便物一切を把握するということまでは認められていなかったのです。

そのため、個別の郵便物(例えば、介護保険関係の役所からの書類など)について、送付先を後見人としてもらって対応するというのがせいぜいでした。もっとも、あらゆる発信元に対応をとることは実際上困難ですし、後見人宛で発送してもらうことの了解が得られるとは限りません。他方で、被後見人宛にどのような書類が届いているかを確認することで、被後見人の財産管理に必要な情報が得られることもあるため、その必要性が議論されてきました。

 

⑵ そこで、今回の改正により、法律上被後見人宛の郵便物を一括して転送(回送)する手続きをとることが、認められることとなりました。

ただし、特段の理由なく認められるものではなく、後見開始の審判を行った家庭裁判所の審判という手続きを踏む必要があります。後見人が家庭裁判所に申立てを行った上、「その事務を行うにあたって必要があると認めるとき」に認められますが、その回送期間は、「6か月を超えることができない」とされています。

同様の郵便物の回送手続は、破産手続においても用いられていますが、破産手続の場合には、回送を認めるべき理由の要請や期間の制限はないため、この点において異なるものと言えます。破産手続の場合には、破産者の財産管理処分権自体が破産管財人に移行するという強い権限が認められることによる差異と思われます。

なお、どのような事例において回送の必要性が肯定されるのか(申立があれば基本的に認める方向性なのか、具体的事情を吟味するのか)、当初の6か月経過後の再度の申立ては認められるのか、については、今後の家庭裁判所の運用が待たれるところです。

 

⑶ また、回送を受けた郵便物は、開封(開被)及び閲覧をすることができます。規定上は郵便物の種類毎に限定を付すということになっていないため、被後見人の意思に反しても郵便物全般開けられることにはなりますが、家庭裁判所の審判の際に、被後見人自身の意思確認をすることを手続として要求していますので、この点のケアは一応されているものと言えます。

ただし、実際上の問題として、後見人としての財産管理におよそ無関係と思われる被後見人のごく私的な信書に関しては、開封しないといった配慮は必要になってくるかもしれません(ただし、その線引きは難しいでしょうが)。

 

3 死後の事務について

⑴ 後見事務を行うにあたって、被後見人がお亡くなりになるという場面に直面することは、少なくありません。基本的には、被後見人の死亡により、後見人の権限は消滅することになるため、後見事件としての終了事務を行うことの他、後見人としての権限は無くなってしまうことになります。被後見人の財産は、遺産として相続人が相続し、管理することとなります。

ところが、実際には、被後見人に身寄りがない場合や相続人間に争い等があって財産の引継ぎが出来ない場合など、被後見人の死亡後も後見人が対応を迫られる事案が少なくありませんでした。例えば、身寄りのない高齢者について市町村長が後見申立をする事案も近年増えており、死後の事務の問題は、その権限をどこに求めるかといった点で、議論されてきたという状況があります。

 

⑵ そうした中、今回の改正では、相続人が相続財産を管理できるようになるまで、①相続財産に属する特定の財産の保護に必要な行為、②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済、③その死体の火葬又は埋葬に関する契約その他相続財産の保存に必要な行為(この③については、家庭裁判所の許可が必要)、をすることができる権限が明文化されました。ただし、相続人に意思に反することが明らかな場合は除くとされています。

上記②③が明文化されたことにより、未払いの施設料や入院費用の支払いを後見人が対応することが権限に基づくものとされましたし、また、火葬・埋葬の手続きを後見人の権限により執り行うことが可能となりました。これまで多くの事例で議論となり、事実上の対応で乗り切ってきた点が解消されることは、後見人の職務遂行上望ましいことと言えます。

 

⑶ もっとも、家庭裁判所の許可に基づく上記③はともかく、①②の行為を行うにあたって被後見人の預貯金から出金をすることが認められるのかは、一つの問題ですし、また、①の「相続財産に属する特定の財産の保護に必要な行為」と③の「その他相続財産の保全に必要な行為」の違いも現時点では明確でなく、許可を求めるべき基準の不明確さがあります。

 

4 運用は今秋以降

今回、後見人の権限が拡大されたことに疑いはありませんが、規定の文言や位置づけからして、あくまで例外的な場面に対応するものであることを失念してはいけないと思います。被後見人の死後は相続人に財産を引継ぎ、その後の対応をお願いするというスタンスで行動することが基本です。

今回の改正法は、公布の日(平成28年4月13日)から起算して六月を経過した日から施行されます。

家庭裁判所の運用は、まだまだこれから明らかになっていくものですので、現時点での議論としては、答えの出ない点も多いと言えます。後見人としては、上記の各点を含め、家庭裁判所との協議・報告の中で事務を進めていく他ないと思われます。                      (上杉謙二郎)