社員の兼業(副業) ~ 違反を問うか、それともコントロールか

多くの企業では、就業規則上、会社の許可無くして他社での兼業を禁じています。一方、最近では、企業業績は悪くないという話もありますが、近年の賃金水準は横ばいか下がっているという状況もあり、また、クラウドサービスやインターネットの活用によって、副業も容易にできるという環境もあり、サラリーマンによる副業(兼業)が増えていると聞きます。週末起業などという言葉も耳にするようになりました。

 

社員(従業員)の兼業について、どう考えればよいのでしょうか。わが国の労働法では、従業員の兼業に関する規定は特にありません。法律で兼業が禁止されている公務員とは異なり、私企業における従業員の兼業は禁止されてはいません。しかし、就業規則によって従業員の兼業を禁止し、許可がない限り兼業してはならないとしている会社が依然として多いと思います。

 

社員から見れば、勤務時間以外は本来自由であり、会社から干渉される筋合いの問題ではないともいえます。裁判例は、無許可で兼業し、兼業禁止規定違反を理由に懲戒解雇や普通解雇を争った事案において、従業員が就業時間以外の時間をどのように過ごすかは従業員の自由に委ねられているのが原則であり、就業規則で兼業を全面的に禁止することは不合理であるとの前提に立っています。それゆえ、就業規則における兼業禁止規定は、それ自体が直ちに無効となるものではないものの、「就業規則によって禁止される無許可営業(兼業)は、会社の企業秩序を乱し、労働者による労務の提供に支障を来たすおそれのあるものに限られる」という判断が一般的です。

 

企業秩序に影響するといえるかの判断要素として、①会社の社会的な名誉や信用を害するか、②競業避止義務に反するか、③秘密保持義務に反するか等が問題となります。また、労務に影響を判断する要素として、社員の雇用形態(正職員か契約社員かアルバイトか)、職種や職務内容、所定労働日数・時間、企業の業種を踏まえた上で、①勤務先企業側事情-兼業を特に制約する事情、②兼業に関する事情-兼業に従事する日数・時間・時間帯やそれによる疲労度など、を判断することになります。

従業員による兼業が発覚した場合、就業規則で禁止されているからといって直ちに懲戒できるわけではなく、兼業が及ぼす企業秩序への影響、労務提供への支障などの点について綿密に検討し、懲戒の可否を慎重に判断する必要があります。具体的な例として、勤務時間中に副業をしていたり、勤務時間外であっても会社の備品を消費して副業しているような場合には、企業秩序を乱すものと評価されるでしょう。競合会社の取締役へ就任したような場合、会社の企業機密を漏らすような場合も同様に許されないと思われます。

最近よく見かける、ブログで商品やサービスを紹介して広告主から報酬を受け取る(アフィリエイト)場合なども投稿者の個人情報の出し方によっては、思いがけず企業の信用問題に発展することも考えられますから、注意が必要です。

 

裁判例では、建設会社の女性社員事務職が、許可無く夜間6時間キャバレーの会計係を兼業していた事案で普通解雇のケースで、軽労働とはいえ会社への労務提供に支障を来たす程度の長時間の兼業であるとして、普通解雇が解雇権の濫用とはいえないと判断した事案があります。また、タクシー運転手が就業時間後、1ヶ月に7、8回ほど輸出車移送のアルバイトをしていたというケースでは、就業規則違反には該当するものの、これを理由とする普通解雇は解雇権の濫用であると判断した事案があります。

 

最近の社員の活用策を見ますと、業種によっては、社員の新しい活躍の場やアイデア、キャリアを将来の企業活動に活かしていこうという考え方の企業も現れています。

また、禁止されている兼業が発覚しても、懲戒の対象となる範囲はごく限られている実情もあります。

兼業を許すことで多様な人材が育つというメリットも考えられ、柔軟に対応して、絶対に遵守すべき事項をはっきりさせるという対応を行うことも(兼業を届出制とし、他方で兼業として許されない業務、例えば、競業避止義務などを具体的に定める)ことも有効な場合があるという発想も今後は必要であるように思いますが、いかがでしょうか。  <池田桂子>